
全国各地に存在する”洋ラン愛好会”の実態とは? -東と西の違いを比べてみよう- 前編
皆さんは、洋ランの愛好会をご存知でしょうか? 〇〇蘭友会や、〇〇洋らん会のような名称(〇〇は地名)で、北は北海道、南は沖縄まで全国各地に存在し、地方のローカルな会もあれば全国規模の大きな団体も存在します。このコラムを読んでいる方の中にはすでにどこかの会に所属している方もいらっしゃるかもしれません。
愛好会の存在は知っているけど、いまいちどんな活動をしているのかわからなかったり、どこか閉鎖的なイメージをお持ちじゃありませんか?
例えば珍しかったり高価な株を持っていないと入会できないんじゃないか?とか、会員は年配の方々ばかりで浮いたり、孤立してしまうんじゃないか?等々、そういったことが気になって、興味はあるけど入会するのを躊躇っているという方も少なくないと思います。
今回のコラム前篇は、洋ラン愛好会の起源や歴史、そして主な愛好団体の紹介。また会ごとに様々な特徴があるので、関東と関西それぞれの某愛好会の活動内容を比較し、何か違いがあるのか検証していきます。後編では東西の愛好会を比較しながら気になる点をQ&A方式でお答えしていこうと思います。
この記事の目次
洋ラン愛好会の起源
日本における洋ラン愛好家会の始まりは、1915年に発足した帝国愛蘭会です。初代会長はなんと早稲田大学を設立した政治家・教育者の大隈重信。
大隈重信は常々「花を愛する人に悪人はいない」と言っていた程熱心な園芸家で、早稲田の自宅には温室を建設し、ランや、当時では珍しかった熱帯植物を多く栽培していました。
今でこそ一般の方々がランの栽培を楽しんでいますが、当時は富裕層の趣味であり、大卒初任給が75円の時代に会費が30円で、ランの苗も今より貴重かつ高価だったため、中々庶民が気軽に始められるものではありませんでした。なので市民サークルというよりも貴族階級のサロン的な意味合いが強かったのかもしれません。
その後島津忠重氏が3代目会長の時代に太平洋戦争が開戦、1942年に自然休会という形となります。
※↓AI技術により自動彩色された当時の大隈邸温室の写真。温室にはバスケットに洋ランが沢山吊り下げられているのがわかる。
主な愛好会(団体)
蘭友会(JAOS)
蘭友会は1938年に前身である大日本蘭協会が設立され、その後1942年に改組して現在の蘭友会となりました。創立80年を超える歴史あるアマチュア愛好団体です。
本拠地(事務局)は東京で、月に一度都内で月例会を行っています。大きなイベントは毎年5月に蘭友会主催の蘭展がサンシャインシティにて行われています。
主な活動内容
- 月例会
- らん展
- 出版・広報
- その他、蘭園探訪ツアー・苗や資材の頒布 など
ホームページ
全日本蘭協会(AJOS)
全日本蘭協会は1958年に創立。先述した帝国愛蘭会が太平洋戦争開戦に伴い活動が停止。その後帝国愛蘭会の最後の会長をしていた島津忠重氏を初代会長として全日本蘭協会が発足しました。会員も帝国愛蘭会の会員の方が参加されていたとのことで、帝国愛蘭会の系譜を引き継ぐ愛好団体と言えます。
全日本蘭協会が他の団体と大きく違う点は、RHS(英国王立園芸協会)やAOS(アメリカ蘭協会)などのように、愛好団体独自の認定審査があるところです。審査会では採点によりFCCやAMなどの認定賞が授与されます。また、蘭友会と同じく毎年1月に全日本蘭協会主催の蘭展がサンシャインシティで行われています。略称は「全蘭」。
主な活動内容
- 月例会
- らん展
- 審査会
- 会報・協会だよりの刊行
- 研究会 など
ホームページ
http://www.orchid.or.jp/orchid/society/ajos/top-photo/index02.html
日本・蘭協会(JOS)
日本・蘭協会は、本拠地(事務局)が大阪にあり、西日本を中心に8つの支部を持つ愛好団体です。創立は全日本蘭協会と同時期の1955年。
毎月一度の月例会と、毎年一度蘭展を大阪で開催し、また不定期で他の支部や主に関西の愛好会が参加する大規模蘭展も開催しています。(直近では2020年にグランフロント大阪で開催)
主な活動内容
- 総会
- 月例会
- 株交換会(年2回)
- らん展
- らん展などへの協力
- 機関紙の刊行
ホームページ
https://japan-orchid.candypop.jp/index.html
CASE.1 某愛好会の活動内容(関東)
東京近郊の某市を拠点とする小規模な愛好会
・会員数
約10名
・主な活動
毎月1回の例会
・年間スケジュール
[4月] 総会
[6月] 近隣の蘭園で月例会を開催
[11月] 市民文化祭に合わせて蘭展を開催
月例会の流れ
会場 : 市民センターの会議室
時間 : 13:00から約2時間程度
12:40〜
例会開始10〜20分前に集合し会議室使用の受付。
13:00〜
会場に着いたらまず手分けし展示用のテーブルをセッティングし、各々出品株を展示テーブルに並べる。
参加名簿を記入(出品株の数など)や投票用紙の準備などを行う。
13:30〜
例会開始。まずは会長や役員からの連絡事項等のお知らせ。
次に会員が持参した出品株の人気投票。原種と交配種に分かれており、各一票ずつ自分が気に入った株に投票する。
13:45〜
開票して人気投票の各一位に選ばれた栽培者には景品が贈呈される。(QUOカード)
そして各部門一位になった栽培者が自分の出品株について解説(いつどこで購入したか、栽培環境、栽培にあたって注意している点等)を行う。その他の出品株も栽培者本人から話を聞きながら、解説を行う。
またその株がどうしたらもっと良くなるか皆で話し合ったり、栽培に関する情報を皆に共有する。
14:15〜
自由時間。会員同士で現在の栽培状況などを報告し合ったり、課題のある株を持参して先輩会員にアドバイスを求めたりなど。
15:00
閉会。手分けして後片付けをし、施設に返却の手続きを行う。解散。
まとめ
創立から50年以上の歴史がある愛好会で、当初は多くの会員を有していましたが、高齢化や会員減少が進み、現在では会員10名程の小規模な会となっています。
月例会では基本的に人気投票を行い、その後は自由時間というシンプルな内容になっています。会員も少なくいので月例会へ参加する人数も平均4名〜6名の為、株市(余剰株の販売会)や、講師を招いての講演なども特にありません。また会全体としてらん展へ出品することも無いので、出品する場合は個人で行わなければいけません。積極的にらん展へ出品したい方や洋ランの知識を深めたいといった方には少々物足りないと感じるかもしれません。
しかし、その反対に少人数なので会員同士の距離が近くアットホームな雰囲気があります。ベテランの会員の方に栽培に関するアドバイスを求めればとても親身になって答えてくれますし、余剰株を譲ってもらうこともあります。大規模な会だと人間関係に疲れてしまうといった話もよく聞きますが、少人数なのでほのぼのとしています。またイベント事が少ないため、会の中での役割を与えられたとしても、プライベートの時間を割いてまで何か作業を行うといったことが殆どありません。(役員などに任命された場合は、作業を任されたりする場合もあります)
月例会の他には、年に一度近くの洋蘭園へ出向きスペースをお借りして出張の月例会を行います。会としての最大のイベントは年に一度、市の文化祭期間中に開催するらん展です。市長や洋蘭園の方にも審査加わって頂き各賞を選出します。
CASE.2 某愛好会の活動内容(関西)
関西近郊の某市を拠点とする愛好会
・会員数
約40名(月例会参加は20~30名)
・主な活動
毎月1回の例会
年1回の蘭園見学旅行、年1~2回会員温室見学会
・年間スケジュール
[4月] 総会
[春/秋]某植物公園内温室にて蘭展を実施
月例会の流れ
会場 : 某所温室もしくは和室
時間 : 13:00から約3時間程度
11:30~
当番制で一般向け初心者向け講習会が実施されます(一般の方が見学に来られます。そのまま例会にも参加される方が多いです)
12:30〜
温室を持たない会員さんのみの情報交換会が実施されています。また例会開始に向けた準備を行います。
会場に着いたらまず手分けし展示用のテーブルをセッティングし、各々出品株を展示テーブルに並べる。
参加名簿を記入(出品株の数など)や投票用紙の準備などを行う。
13:00〜
例会開始。当番制の司会進行が取り仕切りながら、会長や役員からの連絡事項等のお知らせ。
13:15~
当番制で季節のお手入れの紹介、その際に質疑応答なども行われます
14:00~
当番制で講習会を実施。数か月かけて発表内容を準備される方やパワーポイント/プロジェクターを使って発表される方も!
「〇〇(資材)を使ってみた」や「〇〇属の育て方のポイント」「それぞれの品種の弱点」など創意工夫が盛り沢山です。
質疑応答も盛んに行われます。
14:45~
人気投票、品評会
会員が持参した出品株の人気投票、各自5位まで気に入った株を記入して投票する。
会長による人気投票上位の講評、また出品株すべての講評。
講評に合わせて、関東と同様に質疑応答が行われて栽培に関する情報が共有される。
15:15~
株販売
会員持参の株の販売会
15:30
閉会。手分けして後片付けをし、施設に返却の手続きを行う。解散。
まとめ
歴史のある愛好会で現在も例会へ出席される会員も多いアクティブな愛好会です。
出席されている会員は初心者から中級、大ベテランまで幅広い段階の方で構成されています。
月例会では季節のお手入れや講習会が実施されているため、例会に参加しているだけでも本に載っていないような経験値の高い情報を知ることが出来ます。
近隣らん展への出店が積極的であったり、また蘭展での入賞常連者や長く栽培されている方も多いため、株を持参して栽培について相談し的確なアドバイスを貰うことも出来ます。
洋ランの知識を深めたいと思う方にはピッタリな愛好会です。
しかしながら女性の会員が多いのが特徴的で、堅苦しい雰囲気はなくいつも和気あいあいとした雰囲気で質問や相談が行いやすいです。
バスを借りて遠方蘭園へ見学遠足を行ったり、会員さんの温室解放があったりとアットホームな雰囲気があります。
さていかがだったでしょうか?
愛好会の多くは高齢の会員の方が多く、インターネットやSNSを利用して活動内容を伝えたり、会のアピールや会員の勧誘などを積極的に行っているという所は決して多くありません。
そのため興味はあっても、どういった活動を行っているかベールに包まれている部分はあったかと思います。なので今回のコラムで何となくの実態を知って頂けたのではないでしょうか。
後編ではさらに皆さんが気になっていると思われることをQ&A方式でお答えしていきます。また関東と関西で地域差など、それぞれの会によって違った点も出てくると思うので、比較しながらご覧頂けたらと思います。