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世界らん展2022-花と緑の祭典-

世界らん展 2022 -花と緑の祭典- 会場の様子をレポート @東京ドームシティプリズムホール

日本最大級のランのイベント世界らん展 2022 -花と緑の祭典-が3月24日(木)から3月30日(水)の7日間、東京ドームシティプリズムホールにて開催されていました。

今回は世界らん展2022の会場レポート、またそもそも世界らん展とはどんなイベントなのか?というところも解説していきたいと思います。

この記事の目次

世界らん展とは?

世界らん展とは、”日本大賞“を決める審査を中心に、その他4部門を審査する日本最大のランの展示・審査会であり、また日本全国の生産者、そして海外からも生産者が出店する即売会です。ランのみならず、すべての植物・園芸関連イベントの中でも日本最大級と言っても過言ではありません。

そんな世界らん展は歴史も長く、1991年に第1回目が開催され今年で32回目を数えます。イベントを行う会場も1991年の第1回から2020年の第30回まで東京ドームで行っており、来場者はピーク時で40万人、近年でも約10万人と大規模なイベントです。

しかし2021年からコロナウィルスや東京ドームの改修工事などの影響により、会場を同じ東京ドームシティ内のプリズムホールへ移動し、審査も5部門中2部門のみ(昨年は日本大賞を決める”個別部門”のみ)とかなり規模を縮小して開催されています。

今年の日本大賞が決定

世界らん展のメインコンテンツである”日本大賞”とは、端的言うと今現在咲いているラン(東洋蘭など葉芸のものは除く)の中で日本で一番素晴らしい一株を決める審査です。審査プロセスなど詳しくは以下のコラムの「日本大賞が決まるまで」という項目がありますのでぜひご覧ください。

その日本大賞ですが、32年の歴史の中で数々の素晴らしい株が受賞してきましたが、日本大賞史上初めて”ある”ランが受賞しました。

 

世界らん展2022 日本大賞世界らん展2022 日本大賞

日本大賞

Calanthe Yutaka ‘Shinryoku no toki’

山本 裕之(千葉県)

日本大賞を受賞したのはは山本 裕之さんが出品したCalanthe Yutaka ‘Shinryoku no toki’です。

Calanthe(カランセ)は日本ではエビネと呼ばれているランで、今回始めて日本原産のランが日本大賞に輝きました。

 

以下が審査委員長 江尻宗一氏の講評です。

日本原生のエビネの色彩を長い時間をかけて、澄んだグリーンに仕上げた努力が素晴らしいです。

とにかく色彩が美しいこと、花と花との間隔のバランスが良いことが評価のポイントです。

日本原生の蘭が初めて大賞になり「やっと」という思いです。

長いこと洋蘭のボリュームに勝てなかった東洋蘭や日本の蘭ですが、育種の努力が実を結んでよかったと思います。

「世界らん展2022-花と緑の祭典-」審査委員長

江尻 宗一氏

日本大賞を受賞した山本さんは、エビネをはじめ春蘭やウチョウランなど、東洋蘭・日本のランの生産で有名な蘭裕園の園主でもあります。同園は中でもエビネの育種に力を入れており、長年試行錯誤した成果がまさに花開いた形になりました。

エビネは日本の山林の林床にひっそりと可憐に咲くイメージですが、大賞を受賞したこちらのエビネは花は大輪で丸く、何より目が覚めるようなライムグリーンの色彩がとても印象的でした。まさに日本大賞にふさわしい一株。

出品株をご紹介

今年の日本大賞は、日本原産のランが受賞するという歴史的快挙を成し遂げましたが、その他の出品株もどれも素晴らしい力作揃いです。まずは日本大賞に惜しくも届かなかった第2位の「優秀賞」と第3位の「優良賞」をご紹介します。

優秀賞

Paphiopedilum micranthum ‘Super Balloon’

中藤保孝(東京都)

優秀賞はパフィオペディラム属の原種ミクランサムが受賞しました。

個体名の’スーパーバルーン’という名前通り、特筆すべきはこの丸く大きく膨らんだリップ。ペタル(横に開いた花弁)を超えるくらい幅のあるリップは、他に出品されていたミクランサムと比べても群を抜いており、ペタル・ドーサルも丸く、展開も大変良い花でした。受賞者の中藤さんは東京都国分寺市にある中藤洋蘭園の園主。中藤さん自身長年パフィオペディラムの育種に取り組んでいます。

優良賞

Pectabenaria Wow’s White Fairies ‘The Premium White’

加藤春幸(神奈川県)

優良賞はPecteilisとHabenariaの属間交配種Pectabenariaが受賞しました。珍しい地生蘭同士の交配種で、花茎の長さは1m近くになるとても大型のランでした。現在立派な花を咲かせていますが、しかしどうやらこのランは基本的には秋に咲くようなのですが、それを世界らん展に合わせて開花調整を行ってきたのでしょう。そこが評価されたポイントだと推測されます。

受賞した加藤さんも神奈川県座間市にある座間洋らんセンターの二代目であり専務取締役という方。実は加藤さんは前年の世界らん展2021の日本大賞受賞者。その時もとても大輪で大株のデンドロビウム交配種を出品し受賞されていました。今年は優良賞でしたが、秋咲きの大変珍しいランを今咲かせるという離れ業を見せていただきました。

 

それでは上位3株を紹介したので、その他の奨励賞やトロフィー賞を受賞したランや、賞は逃しましたが気になったランを写真で紹介したいと思います。

去年、今年と会場を東京ドームからプリズムホールに移した他に、会期が2月から3月になっています。この1ヶ月ずれたことで例年の世界らん展ではお目に掛かることが少ないランも多く出品されているので、その辺が見どころの一つとなっています。

(左:Phal. Tying Shin Happy Time ‘Carack Marry Cocot’ / 中:Den. Farmeri-Thyrsiflorum’Yatsufusa’  / 右:C.coccinea fma. laranja ‘Shin’)

(Cal.Tokyo Bay-River ‘Red Star’)
(上:Jum.arachnantha ‘White Base’ / 下左:Den.polyanthum ‘Beauty Beach’ / 下右:Spir.sinensis ‘Fukuo’)

奨励賞・トロフィー賞受賞の株たち。流石ブルーリボンとあって力作揃いです。ここでもエンジ色のエビネがありましたが、正直花茎が何本出ているかわからない程の特大株です。こちらはアメリカ蘭協会特別賞、メダル審査ではSM(シルバーメダル)と、CCM(優秀栽培賞)を受賞していました。

大賞を受賞したエビネもそうですが、エビネは一般的に4〜5月が開花のピークなので、例年の2月開催ではここまで咲かせることは難しかったと思います。そういった点では会期がずれたことで恩恵を受けた種類の一つと言えるでしょう。

(左:C. coccinea var. xanthochila ‘Aqua’ / 中:C. lueddemanniana fma. coerulea picoty striata ‘Gunjo’ / 右:Lcn.(L.undulata X Ctt. Chocolate Drop)’Bordeaux’)

カトレアとその近縁属のセクションです。ここでは大輪で華やか、多輪で迫力があり、香りも素晴らしいカトレアたちが沢山出品されていましたが、そんな中注目したのはとても小さなカトレアcoccinea(コクシネア)です。

写真左側のコクシネア。とても小さい花なのでコンパクトにまとまっているように見えますが、これ自体かなりの大株。そして一度にこれほど多くの輪数を付けるだけでも凄いですが、鉢を囲むように1周ぐるっと外側に向ける仕立て方も大変な技術です。

 

(左:Paph. micranthum fma. album ‘Sexy No.5’  / 右:Paph.Catherine Briois ‘Duck’)

こちらはパフィオペディラムのセクション。パフィオは熱心な育種家が多い為か、その育種のスピードは凄まじく花弁のサイズや丸さ、点の多さや色彩の鮮やかさ等、次々と素晴らしい花が毎年のように生まれています。ここ数年の日本大賞もパフィオ整形花の受賞が相次いでいることも、それを象徴しています。

派手な色彩のイメージが強いパフィオですが、白花で可憐な花もあり、中でもパービ系のパフィオはリップが丸く風船のように膨らんでいるので益々可愛いらしく見えます。

(左:Cym.Devon Wine ‘Million Veil’ / 中:Phal.JC Yellow Ladybug’キャラック コスモワールド’ / 右:Holc. flavescens ‘Lani’)
(右:Den. Shine Dance ‘Spring Love’)

(Den.Jan Orinstein ‘Red & White’)

デンドロビウムのセクション。ノビル系のデンドロビウムというと育てやすくホームセンターなどでもよく見かけますが、切り花としても売られているデンファレや、花が房のように咲くカリスタ系などと比べるとどうしても地味な印象が。しかしこちらは山本デンドロビュームなど国内で育種されたノビル系デンドロビウムは、花のサイズはとても大きく色彩も鮮やか、一見するとミニカトレアと見間違う程の花を咲かせています。

またこちらの写真のように、バルブが下垂するタイプのデンドロビウムも支柱を使い直立させることで、株にまとまりが出て花数の多さを際立たせています。

(左:Cym. goeringii(Japan) ‘Nichirin’ / 右:Cym. goeringii(Japan) ‘Nasubeni’)

こちらは日本のラン・東洋蘭のセクションです。洋蘭と大きく違うところは鑑賞ポイントの多さ。花の美しさはもちろんですが、古典園芸植物で評価ポイントである「芸」と呼ばれる変異形質。葉芸である”斑”の入り方一つ取っても”縞斑”や”散り斑”、”覆輪”など沢山の種類が存在し、花でも写真の春蘭のようにバイカラーのものやピンク色のものなど多岐に渡ります。

また植えられている「鉢」も鑑賞ポイントの一つ。三足の鉢に植えるのが一般的で、シンプルなものから絵付けや金彩が施された豪華なものもあり、鉢は栽培者の好みやこだわりが出るところ。

(Calda.serotina ‘Pure Water’)
(左:Orchis italica ‘Humans Dreams’ / 右:Calda. brunonis ‘Impression’)

先述したように、例年2月に開催されていた世界らん展も昨年、今年と3月に開催されるようになり、開催時期がズレることで出品されるランの傾向も変化します。欧州・豪州産の球根ランもその一つ。

オーストラリア原産のcaladenia(カラデニア)は、リップの部分がとても複雑で面白い造形をしていたり、Orchis italicaは通称「裸の人のラン」と呼ばれ、花をよく見ると、沢山の小人が連なっているように見えます。Caladenia Brunonisは花弁がエナメルのような光沢を放っており、植物とは思えない質感です。このように欧州・豪州産の夏眠性球根ランは普段見慣れたランと比べて変わった花を咲かせるものが多く、見ていて飽きません。

その他会場の様子や展示風景

「趣味の園芸」 滝藤賢一 “これ、かっこイイぜ!”

このコーナーはNHK「趣味の園芸」の中で、出演者で俳優の滝藤賢一さんご自身がカッコいい!と思う植物を紹介していく“これカッコイイぜ!”という人気コーナーとのコラボブースです。

滝藤さんの私服の展示や、番組内で紹介された塊根植物やアガベ、ブロメリアやビカクシダ等々、沢山の種類の植物が展示してありました。世界らん展-花と緑の祭典-というタイトル通り、世界らん展は2019年からラン以外の植物も展示・販売する総合園芸イベントとなり、幅広い植物愛好家たちが楽しめる工夫がされています。

ディサ —テーブルマウンテンに輝く赤い宝石—

こちらに展示されているディサは、南アフリカのケープタウンにあるテーブルマウンテンと呼ばれる丘の上に自生しており、そこは夏の日中は霧が立ち込め気温は低く、株元には絶え間なく冷たい水が流れている環境で、冬は反対に比較的温暖で、凍ってしまうような気温にはなりません。なので育成において夏に冷涼で冬温暖な環境を用意する必要があり、栽培は極めて難しいとされています。

育成難易度は高いですが、ご覧の通りとても美しい花を咲かせることで「神々の花」や「幻の洋ラン」などと呼ばれています。

こちらの展示はその「幻の洋ラン」と飛ばれるディサが50株近く開花しており圧巻の一言。これも3月に開催時期がずれたおかげで成し得た展示と言えます。

また今年からは大型ディスプレイ展示が復活。ホールの入口から入賞展示スペースまでの区間は「オーキッドゲート」、「スプリングバレー」と呼ばれる高さ4mに及ぶ大型の展示になっています。無数のランの花がこのイベントに合わせて咲き誇り、これぞ世界らん展と思わせてくれます。

販売ブースの様子

こちらは販売ブースの様子。コロナウィルスの影響で展示出品数も例年に比べて少なかったことと併せて、出店業者数も残念ながら少ない印象でした。原因は世界らん展の会期が3月にずれたので、元々3月に参加していたイベントや、オープンハウス等とスケジュールが被ってしまった為に出店する蘭園が少なくなってしまったようです。

東京ドームで開催されていた時は、北海道から沖縄までの全国津々浦々の蘭園、そして海を超えて海外の蘭園も参加していたので、それに比べると少し寂しい気もしますが、しかしそのような中でも会場には沢山の愛好家たちで溢れ、お目当てのランや植物を手に入れようとする熱気に包まれていました。

またコロナ禍という状況もあってか、会場は若年層の来場者が大変目立っていました。今インテリアプランツと呼ばれ主に室内で栽培する植物がブームになっており、その影響でランや熱帯植物などへの関心が高くなってきていると感じます。

 


 

さて如何だったでしょうか?

実際会場に行った方は今一度このコラムでイベントを振り返っていただき、今回行けなかった方には、会場の雰囲気や熱気などを感じ取っていただけたら嬉しいです。

世界らん展はピーク時に40万人の来場者を誇る巨大園芸イベントでしたが、ランの栽培人口は年々減少していく中で開催が危ぶまれていた時期もあり、それでも2019年からは先述したように多様な園芸植物を展示するイベントに変化。しかしそこへ来て新型コロナウィルスの大流行。このような困難な状況の中でも、こうして開催してくれた実行委員会の皆様、JOGAの皆様には大変感謝しています。

来年こそは東京ドームに改めて全国・世界の愛好家や蘭園が一同に集まり、以前のような盛り上がりを取り戻して欲しいと切に願っています。

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