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菌根について学ぼう

菌根について学ぼう Vol.1 “菌と植物の意外な関係”

今回はランの菌根の話をする前の予備知識として、菌とはなにか、菌根とはなにかについて解説します。ランの話はほとんど出てきません!(すみません)

この記事の目次

菌ってなに?

菌根を形成する生物は植物と”菌”です。菌とは、厳密にいうと菌界*¹に属する生物のことです(混乱を避けるために”真菌”という表現が使われたりします)。

具体的にはカビキノコ酵母等が含まれます。細菌、ウイルス、変形菌、水カビは菌ではありません。

 

菌界はオピストコンタというスーパーグループ*¹に属しており、植物よりも動物に近縁な生き物です。

 

菌類の分類・栄養

菌根について学ぼう

 

菌界は現在、8つの門によって構成されています (Spatafora et al., 2017)。

・クリプト菌門

・微胞子虫門

・コウマクノウキン門

・ツボカビ門

・トリモチカビ門

・ケカビ門

・子嚢菌門

・担子菌門

 

太字で示した門に何らかの菌根菌として知られる種が含まれています。ケカビ門には果物をよく腐らせるクモノスカビや発酵食品に使われるテンペ菌などが属します。子嚢菌門にはアオカビやコウジカビなどのいわゆる”カビ”が、担子菌門にはシイタケ、エリンギ、ブナシメジなど、いわゆる”キノコ”が属しています。しかし、菌類の各門にはとても多様な形態を持った菌が含まれており、ここで挙げたものはほんの一例に過ぎません。

 

 

これらの系統的な分類に加えて、栄養から見た分類も菌根について語るうえで重要です。

全ての菌類は従属栄養生物です。すなわち、自力で有機炭素を合成することができません。そのため、菌類は成長や繁殖に必要な栄養素を体外から吸収して獲得していますが、どうやって栄養素を得るかによって2種類に分けることができます。

 

1つ目は生きた植物から栄養を得る菌です。このタイプの栄養獲得様式を生体栄養活物寄生と呼び、生活環を通じてこのタイプの栄養獲得様式をとる菌のことを絶対寄生菌*と呼びます。絶対寄生菌は宿主植物を殺すことなく、生きた細胞から栄養を得ます。そのため、宿主となる植物がいないと生きていくことができません。

2つ目は死んだ有機物から栄養を得る菌です。このタイプの栄養獲得様式を腐生栄養と呼び、このタイプの栄養獲得様式をとる菌のことを腐生菌と呼びます。

 

*寄生という用語の定義には「共生の一種で、一方の共生者が利益を得、もう一方は不利益を被るもの」に加えて、菌学においては「菌が生きた動植物の体内に侵入し、栄養素を得ること」といった栄養獲得様式に関するものもあります。絶対寄生菌という用語における”寄生”は後者の意味になります。

 

菌根とは

The majority of plants, strictly speaking, do not have roots; they have mycorrhizas.

(厳密には植物の大多数は根を持っていない。彼らは菌根を持っているのだ。; BEG-Committee, 1993)

 

菌根とは、”植物の根と菌が作る共生体”のことです。菌根を形成する菌を菌根菌と呼びます。ラン科植物に限らず、種子植物の90%以上の種が菌根を形成するといわれています。また、種子植物に加えてシダ植物の大半、コケ植物の一部も菌根を形成します (Brundrett and Tedersoo, 2018)。

 

菌根では、菌は植物の組織内に侵入し、特殊な構造を作り、植物と栄養素の交換をしています。菌類の菌糸は植物の根と比べるとかなり細く(数µm~十数µmほど)、効率よく栄養素や水分を獲得することが出来ます。基本的には植物は菌根菌が獲得した無機塩類(窒素、リンなど)や水分を、菌は植物の光合成産物を受け取ります。

 

菌根性植物は野外においてはほとんどの個体が菌根を形成しているといわれており、菌根菌との共生は多くの植物にとって必要不可欠なものです。(菌根菌に加え、葉面菌、内生菌など、様々な菌が植物に関わっています。動物も腸に細菌を飼っているように、生物は他の生物の助けが無いと生きていけないのです。ちなみに菌根菌も栄養素の獲得を細菌に頼ったりしています。)

菌根について学ぼう

 

菌根には7つのタイプがあります (Smith and Read, 2008)。ランの菌根の話をする際に重要になってくるポイントがいくつかあるため、それぞれについて軽く触れておきます。

 

 

各菌根タイプの概要(Smith and Read, 2008 を改変)。”細胞内構造” 及び ”細胞外構造” は菌が植物細胞内外に特殊な構造を形成するかどうかを表している。
種類細胞内構造細胞外構造植物菌根菌
アーバスキュラー×コケ植物

シダ植物

裸子植物

被子植物

ケカビ門(グロムス亜門)
外生×裸子植物

被子植物

担子菌門

子嚢菌門

ケカビ門

エリコイド×ツツジ科子嚢菌門

担子菌門

内外生マツ科(マツ属、カラマツ属)子嚢菌門
アルブトイドツツジ科(シャクジョウソウ亜科、イチゴノキ亜科)担子菌門
モノトロポイドツツジ科(シャクジョウソウ亜科)担子菌門
ラン型×ラン科担子菌門

子嚢菌門

 

 

[アーバスキュラー菌根(AM)]

最も一般的な菌根タイプで、陸上植物の約80%がこのタイプの菌根を形成します。菌根菌はケカビ門のグロムス亜門に属する菌で、この亜門に属する菌は1種を除きすべてがアーバスキュラー菌根菌として知られています。

 

アーバスキュラー菌根菌は植物細胞内に樹枝状体を形成し、そこで栄養素の交換をしています。菌は植物にリン、窒素、ミネラル、水などを渡し、植物は菌に光合成産物を渡しています。

 

栽培作物の多くもアーバスキュラー菌根性のため、この菌は微生物資材として販売されています。「VA菌根菌資材」として販売されているものにはアーバスキュラー菌根菌が含まれています。アーバスキュラー菌根菌は絶対寄生菌で、人工培地上での培養は長い間不可能とされていました。しかし、この菌が脂肪酸合成経路の多くを失っていることが近年明らかになり、脂肪酸を添加した培地上での培養に日本の研究グループが成功しました(まじですごい!)。リンの少ない圃場での作物の栽培にアーバスキュラー菌根菌の接種が効果的であることが知られており、安価で大量に胞子を生産できる技術の開発につながると考えられます。

 

この菌根は最も古くから存在しており、約4億年前、植物が陸上進出した頃から植物はアーバスキュラー菌根菌に養水分の吸収を頼っていたと考えられています。また、ラン型菌根を含むその他のすべての菌根タイプはアーバスキュラー菌根から派生したものだと考えられています。

 

[外生菌根(EcM)]

主に樹木が形成する菌根です。日本だと、マツ科、ブナ科、カバノキ科等の森林の主要な構成樹木がこのタイプです。菌根菌は主に担子菌で、キノコを作る仲間も多く含まれています。タマゴタケ、イグチ(ポルチーニの仲間)、マツタケなど多くの食用キノコが外生菌根性です。また、子嚢菌門、ケカビ門にも外生菌根菌が含まれています。トリュフやアミガサタケは外生菌根性の子嚢菌として知られています。

 

外生菌根では菌は細根の周りを覆う菌鞘を作るため、肉眼でも見つけることが出来ます。また植物の表皮細胞や皮層細胞を取り囲むように発達した菌糸体であるハルティヒネットを形成し、植物と栄養の交換をしています。

 

外生菌根菌もアーバスキュラー菌根菌と同じく多くが生体栄養性です。マツタケ等の有名な食用キノコが含まれているため、こちらも人工栽培の研究が行われています。ホンシメジを商業栽培したり、バカマツタケの子実体(キノコ)形成を成功させたり、日本人がすごく頑張っています。マツタケが安価で出回るようになるのもそう遠くないかもしれません。

 

外生菌根菌はその他のタイプの菌根菌になることがあります。一部のランも外生菌根菌と共生しています。樹木と外生菌根菌、それに共生するその他の植物という三者共生が成り立っているのです。この場合、基本的に外生菌根菌が樹木から得た炭素にその他の植物が依存しており、その他の植物には完全菌従属栄養植物(光合成をせず、炭素源を菌に完全に頼る植物)も多く存在しています。

 

[エリコイド菌根(ErM)]

ドウダンツツジ亜科、イチゴノキ亜科、シャクジョウソウ亜科を除くツツジ科植物が形成する菌根です。菌根菌は子嚢菌と担子菌に含まれています。菌根菌はヘアールートと呼ばれるとても細い根の細胞内に菌糸コイルを形成します。ツツジ科には高山など貧栄養で酸性の土壌に生息している植物が多くいますが、そのような環境への適応にエリコイド菌根菌が関わっていると考えられています。

 

[内外生菌根]

マツ科のマツ属、カラマツ属の樹木とチャワンタケ目の子嚢菌(Wilcoxina属菌)が形成する菌根です。菌根菌は外生菌根と同じような細胞外構造(菌鞘、ハルティヒネット)を形成しますが、植物細胞内にも侵入し、菌糸コイルを形成します。

 

[アルブトイド菌根]

ツツジ科シャクジョウソウ亜科とイチゴノキ亜科の一部が形成する菌根です。イチヤクソウの仲間はこのタイプです。菌根菌は担子菌門の外生菌根菌です。先述のように、アルブトイド菌根性植物は菌根菌を通して樹木に依存しています。内外生菌根と同じように、菌は菌鞘、ハルティヒネットに加えて植物細胞内に菌糸コイルを形成します。

 

[モノトロポイド菌根]

ツツジ科シャクジョウソウ亜科の一部が形成する菌根です。このタイプの菌根を形成する植物はすべてが完全菌従属栄養植物です。ギンリョウソウやシャクジョウソウ等はこのタイプの菌根を形成します。菌根菌はこちらも担子菌門の外生菌根菌です。菌は菌鞘、ハルティヒネットに加えて植物細胞内に貫入した菌糸ペグを形成します。

 

 

[ラン型菌根(OM)]

ラン科植物の全種(今のところ例外は無し)が形成する菌根です。菌根菌は主に腐生性の担子菌、外生菌根性の担子菌、子嚢菌です。菌は植物細胞内に菌糸コイルを形成します。今後詳しく解説します。

 

 

 

おわりに

著作権の関係上、写真をあまり載せられませんでした。すみません。各菌根タイプに独自の構造があり、とても面白いのでぜひリンク先で見てみてください。

また、私のコラムではランの菌根について解説することを趣旨としているため、菌類の分類や各菌根タイプの説明に関してはかなり駆け足になってしまいました。興味を持っていただけた方はぜひ参考文献にも目を通してみてください。

 

*¹ 界、スーパーグループ:生物の分類階級の1つ。大きい方から界、門、綱、目、科、属、種とあり、界より上にスーパーグループがあります。詳しくはWikipediaかこちらの文献で

島野智之. (2010). 界, ドメイン, そしてスーパーグループ : 真核生物の高次分類に関する新しい概念. タクサ:日本動物分類学会誌, 29, 31–49.

 

 

引用文献

Brundrett, M. C., & Tedersoo, L. (2018). Evolutionary history of mycorrhizal symbioses and global host plant diversity. The New Phytologist220(4), 1108–1115.

Smith, S. E. & Read, D. J. (2008). Mycorrhizal symbiosis. Academic Press, Cambridge, UK.

Spatafora, J. W., Aime, M. C., Grigoriev, I. V., Martin, F., Stajich, J. E., & Blackwell, M. (2017). The Fungal Tree of Life: from Molecular Systematics to Genome-Scale Phylogenies. Microbiology Spectrum5(5).

 

参考文献

柿嶋眞 & 徳増征二. (2014). 菌類の生物学ー分類・系統・生態・環境・利用ー. 共立出版, 東京, 日本.

大園享司. (2018). 基礎から学べる菌類生態学. 共立出版, 東京, 日本.

齋藤雅典. (2020). 菌根の世界: 菌と植物のきってもきれない関係. 築地書館, 東京, 日本.

明間民生. 菌根とは; http://cse.ffpri.affrc.go.jp/akema/public/mycorrhiza/mycorrhiza.html (2021年3月10日閲覧)

RECCOMEND

1996年生まれ。大学院でランの菌根菌の研究をしていた就活生。ネジバナ探しなら誰にも負けません。栽培は初心者ですが、雑多にいろいろ育てています(最近はパフィオが好き)。 私と一緒に菌根の世界を旅しましょう!!

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